俺と死んでくれるのか? 私的高校教師物語(1)

Gのマロンパイは美味しい

今日、新宿某デパートで、それを買った。
丸の内線方向へ歩くとき、いつも思い出す人がいる。

彼と新宿の某デパート主催の西洋絵画の企画展を
彼と観にいったあの日は、粉雪が降りとても寒かった。
彼と二人きりではなく、もう1人知人が一緒だった。

彼は誰からも好かれる人だった。
彼の名前をDと呼ぼう。

それは、機会があって、みんなと飲みにいったことから始まる。
市民サークルから枝わかれしたような、地元の老若男女混在の
興味が共通している人々の集まり。
講師は老境に入ったフランス文学者。

そういう集団は、そのうち気の合う者たちがグル-プ化して、
個人的な集まりが出きてくるものだが、
個人個人が醒めた人が多かったのか、忙しい人々が多かったのか、
幸い、講座のあと、講師に付き合ってお茶を飲む人たちは。
群れることをあまりしない人ばかりだった。

お茶のあとは飲み会で、講師は下戸だったので、帰ってゆくが、
お茶につきあう人はだいたい都合が悪くなければやってきていた。
休日の前だという解放感もあるだろう。

Dは雰囲気のある人だった。
ずいぶん前から講座には来ていたようだが、私がDの存在に気づいたのは、
つい最近のことだった。
こむずかしい質問するDは、少し他の人々と毛色が変わっているように見えた。

お互い、個人的なつきあいはないから、みんなと一緒にお茶を飲む時、それぞれのことを
何気なく話す程度の関係だったので、年齢も職業も私生活も何も知らないまま出会っていたが、
ある日、何気なく、Dが教師らしいことを知った。

遠めにしか見たことがないが、陰があった。
若く見えるが、落ち着いた雰囲気で、年齢の見当がつかなかった。(作者注:これ本当です^^)
どこかにまだ、若造みたいな青さを何%か残しているような‥‥。
何かに傷ついてる人のようにも見えた。

太宰治の話題が出た。

私が
「彼のお墓に行ったことがあります」
と言うと、女性たちが話し出したのは心中のこと。
「でも、心中の巻き添えはいやだわよねェ」
「ああいう心中って、一種の催眠状態じゃないの。マインドコントロールみたいな」
「死にたいなら、1人で勝手に死んでほしいわ」
「ほんと。究極のマザコンだよね」
Dがぼそっと口を挟んだ。
「俺はマザコンだ」
私が、テーブルをはさんで斜め向かいの彼に言った。
「じゃあ、心中予備軍かも」
「ああ、死にたいね。もうこの世に悔いはない」
「本気? 死んじゃだめだよ」
一瞬だが、Dは何%かの本音を出していたように思えた。
だから、つい本気で返してしまったが、本当はどうだったんだろうか。

「へえ。じゃあ、俺と死んでくれるのか?」
「ハア?」
「だろ? 君はな、大人の苦悩を何も知らんガキ」
「ガキって‥‥」
「寂しがり屋なんだろ? さあ飲むより、ホッケでも食えよ」
「え」
「俺が皿に取ってやる」
「あ‥‥」
「魚は頭にいいんだ。勉強に集中できるぞ」
「勉強?」
「ところで、なにを専攻してるんだ?」


(続く)

(フィクションです。また手直しします)