淫行かゲイか!? 私的高校教師物語(2)

「学生じゃないですよ。酔ってるんですか?」
「とにかくホッケを食え」
「もう‥‥いただきますけど」
次に春巻きだったか唐アゲだったか覚えてないが、
私のお皿に乗せてくれて、
「君はこましゃくれてるんだよな‥‥」と言う。
「はい?」
私は唇をねじ曲げて返事をした。

私に集中して、Dが食べ物を与えてくれるので、
自分が饑餓難民になったような気分だった。
周囲の視線など無視して、彼は私に優しくする。
Dは私しか見ていなかった。

というより、自分の思い込みしか見ていなかった、
というべきか。戸惑うしかなかった。

「愛されてるねー。A(ワタシ)さん」
女性のひとりが言う。

「愛? うえー愛ですか!? これ、愛なんですか!?」

私が大袈裟にいやそうに言うと、
「Dさんがこんなに饒舌な人だったなんて初めて知ったわ」
「ほんと」
私の隣の女性も頷いていた。

「いつもはどうなんです? この人」
私は隣の人に小声で訪ねた。
「いつも無口よ。飲み会もあまり来ないし」

それから1時間くらいは、普通に文学の話、政治の話、社会の話
世間の話で、時間が流れていった。
Dはあまり話に加わっていない。もう何年も会に来てる人ばかりだから、
私のような新参者以外は、結構みんな見知った仲なんだろうと考えていたが、
そうでもないようだった。
それまで、数度、飲み会には出ていたが、いつもDはうつむいていて、
静かに飲んでいるだけだった。誰とも打ち解けていなかった。
かといって、Dは浮いてるわけでもない。存在感はあるのだ。


気がつくと、Dは私の隣にいた。

みな、気の合う人と思い思いに話している。

Dはそうとうお酒がまわっているように見える。
Dの口から、いろんな話題が出たが、私は聞き役だった。
他の人から見ても、どういう人かわからない人なのだ、Dは。
「俺は暗い‥‥」
「なにかあったの?」
「‥‥‥‥」

「忘れられない痛い思い出があるんだ」
突然、Dは恋愛の話を始めた。
「混血の高校生だった」

「え? それじゃ淫行じゃないですか」

「相手は18歳だ」
「教え子に手を出したの? だから暗いのかぁ」
「俺の担当は男子学生だよ」

「Dさん、ゲイだったの?」



(つづく)