「胡蝶の夢」と能「井筒」と… 星の時計のLiddell」内田善美(集英社)

コミック「星の時計のLiddell内田善美 を本の整理中に見つけた。
で、再読した。

 「荘子が胡蝶になった夢をみたの  目覚めて彼は思うのね
 果たして今の自分は あの胡蝶がみている夢で 現実は胡蝶で
 胡蝶のみている夢の中で こうして人間の姿をしているのではないかってね」


大学生葉月が、主人公ウラジーミルにこう言う場面がある。
星の時計のLiddell」全三巻のテーマは、この「胡蝶の夢」がそのまんまだ。

ウラジーミルは、2年ぶりに学生時代を過ごしたシカゴに帰ってきた。
そこには親友ヒューやヴィがいた。彼らは再び友情を分かちあう。

ヒューはいつも同じ夢を見る。
月の出る夜に、ヴィクトリアン・ハウスで幽霊になった自分が、
少女リデルと話す夢を、繰り返し見るのだ。
夢を見ている時、ヒューの呼吸は止まる。
ヒューが仮死状態に陥ることに気付いたウラジーミルは
専門家に訪ねるが、不安は消えない。
ヒューは、独自の幸福な世界を、自分の内に持つ、ウラジーミルから
見れば、未知の人間だった。

この二人が、ヒューの夢の中の家が実在するものとして、旅に出ることで、
不思議なラストへと、物語が進んでゆく。

家は実在していた。
しかも、なんと家の持ち主は、「ウラジーミル」が現れるのを待っていたのである。
読み終えると、独特の感傷を味わうかもしれない。
哀しいような、幸福なような……


「井筒」という能をみたことがある。野外で、どこでだったかは忘れたが、
どこかのお寺か、神社だったと思う。
世阿弥作といわれるその物語を、このコミックで思い出した。

業平を想う紀有常の娘だという妖艶な女性が、旅の僧に、
自分の初恋物語を聞かせる。そして消えてしまう。
その夜、僧侶の夢の中で、その女が業平にのりうつって舞う。
そして、明け方の鐘とともに消えてゆき、僧も夢から覚める。
幽玄で、はかない感じが、「星の時計のLiddell」と似てると思った。

「井筒」(映像有)
http://www2.ntj.jac.go.jp/unesco/noh/jp/movie.html
井筒かア。
泉鏡花の世界にも通じるものがあるかもな世界。
でも、鏡花の場合、作品によってはヘンタイっぽいんだよねエ…(^^;)
(オカルトとスプラッタの融合なコトも…)