魅惑的な二人のマノンについて①

業の深い美少女にはまったのは、アヴェ・プレヴォーの「マノン・レスコー」を
読んだことが一番大きいかもしれない。
アベ・プレヴォーは多くの作品を残していて、マノンの話はそのうちのひとつにすぎない。
けれども、他のどの物語よりも愛読者を多く得たという。

マノンは、外見は可憐なお嬢様にしか見えないのに、内面は浮気性で浅はかな、
驕慢な浪費家として描かれる。
たった一人の恋人シュバリエを、生活を楽しむために十分なお金があれば心から愛するが、
お金がなければ、未来への不安に負けて、簡単に他の男たちを騙して金品を得る。
そしてそれを、恋人と自分のために使い果たす。(^~^;)

豪奢で華美な生活がないと、恋人と楽しい気分になれない女マノン。
これほどに欲望に素直で、自分の感情に正直な性格である以上、
マノンは信仰というものを持たないに等しい。
しかし、決して悪女というわけではない。(悪女には違いないんだけどね)

僧になる勉強をしている恋人を、僧院から引っ張り出すことに成功するのは、
マノンの美しさと彼女の情熱ゆえである。
状況からは、まじめな青年を惑わす性悪女がマノンということになる。
マノン本人にしてみれば、恋人を愛するがゆえの純粋な行為なのであり、罪の意識は
そこにはない。罪の意識のない悪女、無垢なる悪女性がこのマノンの魅力だろうな。

ティーンエイジャーだから許される無知と傲慢さでもある。穢れなき純粋さとでも言うか。

でもシュバリエの心が動くのは、マノンの情欲をそそる魅惑的な容姿だけが
原因ではなく、彼女の強い意志、熱い情熱に誘発されたことも大きいはず。
意志の弱い男が、他人を愛することによって奇跡を起こすのだ。
まじめだが、変化のない安全な生活に、彼は別れを告げることこそそれだ。

マノンと出会わなければ、シュバリエはつまらない人生で終わったかもしれない。
だが、マノンと出会ったことによって、犯罪にまで手を染め堕落してしまうのだ。
最後には、自分の腕の中での「恋人の死」という悲痛な宿命が彼を待っている。

奇跡はいつの時代でも、使い方を間違えると悲惨な結末を迎えるものだ。
ここでの奇跡は、愚かさにつながる奇跡である。

でも、「あの時はどうかしていた」と思えることのほうが、後になって、
後悔はしないものではないだろうか。無知で愚かであればあるほど・・・。
(つづく)