“光の井戸” 天窓から一階に光を落として──4方向を隣家で囲まれても明るい家  増田政一(アルクデザイン)設計  狭小住宅その(1)

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光の井戸


増田さんの狭小住宅

T-house(多摩川べりの狭小住宅)


かつては大きな土地だった場所を
細かく切り分けて売った際に
売れずに残ってしまったような
非常に悪条件そのものの場所に建っている。

敷地17坪。建築が許されるのはわずか10坪。

唯一道路に面して開かれた間口は
ちょうど2メートル。

たった2メートル!?

まぁ・・・・・クルマは入れられる幅、ではあるし
車庫にリフォーム可能な設計ではある。

そこから玄関へ。

玄関の上部に広がる大きな開口部で2階のリビングに光を取り込む


開口部から出られるオープン・デッキはグレーチング。
階下(外)から風が上部に吹き抜ける。
植樹されたヒメシャラが季節を知らせる。

お邪魔した日は暑かったのだが
デッキに出ると、気持ちのいい風が吹き込んだ。

ヒメシャラを眺めながら、ビールがさぞ美味しいだろう場所。



だがもう一カ所気持ちのいい場所はある。

ロフトである。


2階全体は大きなワンルーム
上部はロフト(画像3枚目)である。
このロフトがとても広いが、ただ広いだけではない。

階段の真上のロフトの床部分がガラスになっている。
ロフトの天窓から光が入ってきて
床の階段上のガラス部分を通して一階に滝のように光が落ちる仕掛け。
これを増田さんは

「光の井戸」

と呼んだ。

ワタシは気づかなかった。

「1階まで光が落ちます」

そうか、そうだったのか!

恥ずかしい・・・・ワタシはそこまで見ていなかった。
遊び心だとばかり思っていた。

さて。

十年くらい前から、狭小住宅は
実験住宅みたいなものが多いと感じていたが・・・・。

はっきり言えば、そのハコの建築面積分
ワンルームとして扱うしか、広さを確保できる方法はない。
それをいかにつなげるかくらいしか工夫はなかった。
とくにらせん階段を使ったり、屋上というオマケをつけて
日常を贅沢にしたり
オシャレで他の人とはちがう特別な価値の付加で
狭くとも一戸建てのおトク感を盛り上げようとはしていた。

その後、狭さを克服する工夫で何人か優れた設計を
数少ないが、いくつか見た。
有名どころや、期待の若手は評価できなかった。

いいなと思ったのは宮晶子さん。一つ見ただけであるが、ワタシは10年前期待した。
(どーなった? 彼女!?)

もう一人。名前を度忘れ
以前、住宅雑誌で、5層のスキップフロアでオモシロイ設計を見た。
広さを克服したというより
「狭さなんて最初から相手にしていませんよ!」
という感じなのだ。

「とにかく居心地のいい空間をつくることしか考えてないですよ!」
みたいな。
狭さを克服したというよりは、狭いからこそ
すばらしくオモシロイ家が出来上がってた。
3畳の和室。階段の箱収納、狭いのにベランダもある。
CADならではの設計らしいが。本が見つからない。
(あれも狭山だったような・・・うろ覚えだが(;-.-)=3

さて、われらが増田さんの設計はというと

とにかく広がりがあり
光と風が通り
季節を四季を通して味わう
こういったことは絶対はずさない設計であり

広さを追究する姿勢を貫くというか
決してあきらめないチャレンジャーが彼である。

建築面積いっぱいをワンルームとして使う

増田さんもこれを2階でやっている。

真ん中に階段。

このことで2階はまわれる空間となった。

コルビジェが両親の家で試したプランが、まわれる家だった。
スペースの無駄を徹底的にそぎ落とし
快適な住まいをつくるには、どのようにすればよいか。
本当に必要なものをどう組み合わせればよいのか。
それを両親の家をつくる上で追求したコルビジェ

いまではあたりまえとなった「まわれる家」の快適性は
コルビジェの徹底した動線計画のスタディの果てに
もたらされたものであるといえる。

まわれる家は、空間の役割を自由に変えられるし
日常の動線の可能性が広がっている。

前述したように狭小住宅は実験的なものが多く
ただ空間として、ハコをポンッと施主に渡して
「あとはご自由にお使いください」
という、まるでスケルトン渡しみたいな感覚の建築家もいたと思う。

確かに「まわれる家」にはなっていたが。

木箱にキッチンセットと浴室と便所と設置して、あとは
大きな空間1、2、小さな空間1、2、3みたいな、、、
小さな部屋を収納に使おうが、個室に使おうがご自由にみたいな。

ある意味かっこいいが、ワタシは

味けないな

と思っていた。

だが、増田さんは味けなくないのだ。
このT-houseに居心地の良さを生み出す工夫として
階段を中心にした2階においてオモシロイ使い方を提案している。

なんと☆

空間の役割を変える

これは増田さん流にいえば

「空間をオーバーラップさせる」

という発想。

2階全体をLDKとして使うなら、ふつう1階に寝室がある。
ところが、2階ですべての問題を解決してしまおうというのがソレなんだろうか。
(未確認)

どういうことか?

「タタミ」のコーナー

一枚目の画像。
琉球畳を敷いた個室に見える画像。
実は、これは個室ではない。

このお宅を見せていただいたあとで
この画像を見て驚いた。

「こんな部屋あったっけ?」


画像右奥に障子があるが
ここを開けるとすぐ階段室。
そうは見えない(@_@;)

つまり、この和室は
いつもはフローリングとの(2枚目)
ひとつながりの空間として利用している
大きなリビングの一部なんである。

そこに

天井までの建具で、フローリング部分と間仕切りすることで


和室が出現!

壁があることで、プライバシーが守られてる気がして落ち着く。
(避難所でも間仕切りがあるだけで、どれだけ安心感が持てるか、多くの人が語ってた)

タタミがあれば、布団を敷いて休むことができるし
客間、書斎としても活躍しそうです♪

移動壁だ!

建具というよりは、壁ができる感じです。
ワタシは「移動壁」と命名したい・・・・。
建具は使わない時は収納できる(こういう処理も重要)。


夜と昼と空間が役割を変える──

リートフェルトユトレヒトにあるシュレーダー邸。

あの派手なレッド&ブルーチェアのある家が
そういう使い方をしていた。

畳コーナーに造り付け棚があり、こういった工夫が個室として使える機能をプラスしてくれる。


(その(2)につづく)

(※誤字、修正しました。)